詠草「むさしのゝ月」
えいそう つき
概要
墨の濃さ、薄さ。太さ、細さ。決してまっすぐに等間隔に並んではおらず、絶妙なリズム感で連なる文字。
これは詠草といい、かしこまらずにさらっと和歌を書いたものです。筆者の烏丸光広(からすまるみつひろ)は、安土桃山時代から江戸時代初期の朝廷に仕えた貴族であり、歌人でした。たくみな筆遣いと、平安時代など古い時代の筆跡の目利きとしても知られた人物です。
書かれているのは次のような内容です:
むさしのゝ月
光広
さそなみむ/ 山のはしらぬ / むさし野に / 秋はも中の / 有明の月
墨の色に注目してみると、中央の「さそなみむ」が最も色が濃いので、ここから書き始め、和歌を書いた後に右の題「むさしのゝ月」、そしてサインの「光広」を書いたことが想像されます。1行1行が書かれていくプロセスを、動画のように想像しながら見てみるのも面白いでしょう。
一番の見どころは、左から2行目、上から3文字目からの「も中(最中)」。筆を持ち、文字を書いているつもりで、つながる線を目で追ってみてください。反時計回りに回転していた筆の線が、4文字目の「中」にかかるあたりでねじれ、時計回りにダイナミックに逆転します。このあたりの墨の濃淡や、筆の勢いは、まるで空中にひらめく新体操のリボンのように、遠近感をもって感じられます。
このように、和歌などを行ごとに高低をつけたり、とびとびに散らして書くことを「散らし書き」といいます。ジャズミュージシャンの即興演奏を聴くように、流れにのって楽しんでみてください。
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